10月19日
淑子とか、美江子とかあと靖代とか、母っぽい名を夢見るやまい



10月14日
たくさんの生姜をすって凍らせてお湯を沸かして寒いね今日は



10月13日
ほしいものなんていらないあの日から 野菜増し増しおいしいごはん



10月12日
星の降る夜に会ったらさようなら 思い出してよ あれは雪でしょ



9月20日
君だって事のひどさを知っている 羊膜の中 すべて見ただろ



9月20日
脚を折り死ぬ友達もいると生まれた日から知ってるユニコーン



9月20日
本屋にて姉の姿を見失い 別にほしくもなかった啄木



9月20日
愛の名と書き読み方のわからないあの子の家がなくなっていた



9月18日
ここにいなさいエイリアン遠くからあなた一人の旅の中なら



9月12日
毎年のことだよ雨がまっすぐに落ちて静かに秋になるのは



9月10日
福島の水族館でピラルクの赤い尾びれが揺れていたよね



9月9日
マジックをノートの表紙に滑らせるのと同じ黒 実家のピアノ



9月6日
骨と血と肉と皮とでできてます いいえ精子と卵で私は



8月24日
かっこいい苗字の家を見ていたら出てきて消えた皮膚病の猫



8月22日
自車校の送迎バンの硬い椅子 白い首筋 ピンクのイヤホン



8月4日
デパートの入り口すぐの催事場で黒猫の白い浴衣を買わない



7月27日
ジオジオの表紙の色のブラウスでバスを待ち待ち知らない子ども



7月15日
日が沈む ガードレールに腰かけた彼の猫背がとても正しい



6月28日
端っこをバターナイフで切り取って鍋にとかせば香る夕闇



6月27日
明け方の青く浮つく駐車場 恋しくなって初夏もおしまい



6月18日
母さんの箸の持ちかた鉛筆の持ちかた洗った鍋の置きかた



6月13日
ついさっき店仕舞いした電器屋の二階の灯りがついたり消えたり



6月4日
置き去りのぬるい麦茶に落ちて死ぬ虫の命のそのやすらかさよ



5月29日
週末の洗濯物を干し終えて少し角度を変えている猫



5月25日
昼頃に早退しようと決めたから 足どり軽くシャワーの夜明け



5月22日
掃除機がすべて吸い取りますように 真夜中を割る皿か茶碗か



3月31日
悲しいよ あなたに会えなくなることが とても悲しい とても悲しい



3月10日
真夜中の展望台で君の吸うたばこの先が赤いよ赤い



3月7日
目じるしの赤いデミオと持ち主は引っ越したんだ 迎えに行くね



3月4日
春よりも近くに君がいたようで足を止めたよ もう進めない



3月3日
曽祖母と桃の缶づめ食べた日を思い出したら嫁入り支度



3月1日
大げさな別れの歌の指揮を振るあの子に向かいピアノ弾く君



2月23日
四年前ダースを買ったコンビニの看板の濃い青をただ見る



2月11日
ミジンコの気持ちで眠って明日にはペンギンくらいに進化してたい



2月8日
いつもより一つ結びが低いのにわけがあるのか聞くのはよすね



2月1日
お風呂場の戸のパッキンがかびていてここに住むのを決めたんだったね



1月31日
東京のおみやげ下げて見上げればあなたの部屋の安いカーテン



1月26日
こたつから肩さえ出さず書いてます 結ぶ言葉は省くよ許せ



1月21日
さよならを言えずにいたと気づくと同時に再会するchocolat(e)



1月17日
母さんとラーメン食べに行ってきます ミラーに積もる雪が白いね



1月13日
薬屋でお臍をしまう母さんの手が冷たいね、内斜視の君よ



1月11日
いつまでも困っていたいような日の図ると謀ると測ると計る



1月3日
カーテンの丈が足らないあの部屋を隠し続けるこのユーラシア



1月1日
捨てすぎた事柄をまた一つずつ拾っていこうね 同じ今日から



2016年



12月31日
蕎麦屋にて遠い国から来た人が上手に箸でつかむだし巻き



12月24日
吊り革に届かない手がこれからも何かを握っていられますよう



12月23日
ハイターに殺されたダニを吸い込んで弟眠る今日は祝日



12月16日
紺色とねずみ色をまぜたような夜もうとうと眠る水曜



12月15日
thunderとbirdの間にスペースを入れるかどうか悩む真夜中



12月15日
骨よりもかたいところがありそうでいつまでもあなたを齧っていたい



12月4日
白秋のコートの匂い バスの中 雪や林檎を歌えないわけ



11月23日
群れていく白鳥に鷺は背を向けて凛々しくも軽く閉じられた口



11月14日
今日よりももっと好い日がありそうでタオルケットが頼りない午後



11月14日
坂の上 遠く聞こえる踏切と私のあいだに雨は降る、降る。



11月12日
仏壇にチャッカマン返す甥の手にきんろうかんしゃの字は薄くなり



11月5日
葉を隠す森は近くに見あたらない 猫の毛隠せアンゴラセーター



11月3日
犬かきでよければ僕も参加しますラブラドールの金髪黒い目



11月2日
トラックの習志野ナンバーその町がアメリカよりも遠く感じる



10月31日
UFOか星かしばらく悩むとき飛行機だと言ってくれるおとうと



10月30日
夕飯も食べずに眠って真夜中に目覚める心細さで君が好き



10月30日
ここよりも住み慣れた町がありそうで高校地理の教科書探す



10月28日
ストローが「音を立てずに飲めます」と平気な顔で嘘をついてる



10月28日
豆電球ではないことを知りながら夜中の灯りをそう呼ぶ習い



2015年